【事例4】限りなく粉飾に近い原価計算(例題付き)

皆さんこんにちは。
AAS東京代表の早坂です。

いよいよ来週火曜日(3日)が1次試験の合格発表ですね。
発表待ちの方はドキドキしていることと思います。

さて、今日は、財務ネタを1つお話したいと思います。

まず、一次知識のおさらいです。
全部原価計算直接原価計算の違いについて、覚えているでしょうか?

全部原価計算は、公式の財務諸表で用いられる原価計算の方法になります。
一方で、直接原価計算は、CVP分析などの管理会計を行うための原価計算の方法ですね。
主な違いは、費用の部分になります。

・全部原価計算は、費用を売上原価と販管費に分けます。
・直接原価計算は、費用を変動費と固定費に分けます。

ここで1つ質問です。

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全部原価計算と直接原価計算でこのように費用の区分の仕方が異なるのですが、それでは費用の区分が異なるだけで、費用の総額自体は同じなのでしょうか?

 

これが同じであれば話は簡単なのですが、実は異なるから、ややこしいのですよね。
どう異なるかと言いますと、固定費の中の固定製造原価が異なります。

  • 直接原価計算は、当期に発生した固定製造原価を、全て当期の固定製造原価として計算します(期間費用)
  • 一方で、全部原価計算では、当期の売上製品にかかった固定製造原価を、固定製造原価とします。
    そのため、前期の製品在庫が当期売れた場合には、その前期の製品在庫にかかった固定製造原価も当期に計上されます。
    また、当期に発生した固定製造原価でも、在庫として残ってしまった製品にかかった固定製造原価は、当期の原価としては計上されません。

ややこしいので、式で示しましょう。

  1. 前期末の棚卸資産にかかった固定製造原価
  2. 当期に発生した固定製造原価(=直接原価計算の固定製造原価)
  3. 当期末の棚卸資産にかかった固定製造原価

とすると、

全部原価計算の固定製造原価=①+②-③

となります。

どうでしょう?ここまではOKでしょうか?

それでは、ここで例題をひとつ出しましょう。

<例題>

以下の条件に基づき、全部原価計算によるA社、B社の固定製造原価を求めよ。

(A社)
当期に発生した固定製造原価 1,000
期首棚卸資産 0 生産数量 200 販売数量 150 期末棚卸資産 50

(B社)
当期に発生した固定製造原価 1,000
期首棚卸資産 0 生産数量 250 販売数量 150 期末棚卸資産 100

どうでしょう。
上記の公式に基づいて計算すれば、それほど難しくはないでしょう。

それでは答えを発表します!

(A社)
生産数量1個あたりの固定製造原価=1,000÷200=5
期末棚卸資産にかかった固定製造原価(③)=50×5=250
∴全部原価計算の固定製造原価=0+1,000-250=750

(B社)
生産数量1個あたりの固定製造原価=1,000÷250=4
期末棚卸資産にかかった固定製造原価(③)=100×4=400
∴全部原価計算の固定製造原価=0+1,000-400=600

となります。

今回の例題は楽勝でしたかね。
正解した皆様、おめでとうございます
パチパチパチ・・・

が、しかし、今日の本題はここからなのです。

この計算結果を見て、何か疑問に思うことは無いでしょうか?

この計算結果が示唆していることまでわかった方が、この問題の真の正解者です!

この計算結果を見ると、A社と比べてB社のほうが、固定製造原価が150安くなっていますね。

しかし、考えてみてください。
A社とB社で一体何が違うのでしょうか?

違いは、生産数量と期末棚卸資産ですね。
A社もB社も販売数量は同じですが、B社のほうがたくさん生産して売れ残った分だけ、A社より在庫(期末棚卸資産)が多くなっています。

違いは、これだけです。

この違いによって、B社のほうが当期のコスト(固定製造原価)が安くなっている訳です。
当然、その分だけ利益が出やすくなります

つまり、今回の計算結果が示唆していることは、
生産量を増やして在庫を積み増せば積み増すほど、1個あたりにかかる固定製造原価が小さくなり、利益が出るということなのです。
(全部原価計算で計算した場合)

実際に、赤字が数年続いていて、当期どうしても利益を出さないといけない場合に、在庫の積み増しが行われることがあります。
これは、全部原価計算という会計の仕組みを悪用した、限りなく粉飾に近い決算と言えます(合法ですが)。

しかし、これで当期は利益が出せたとしても、その大量の在庫は翌期に重くのしかかることになりますので、当座をしのげるだけで、何ら根本的な解決にはなりませんね。

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