【私論】与件文に“叙述トリック”はあるのか

(「馬車の第5輪」による、5回目の投稿をお届けします)

突然ですが2次試験って、本当に難しいですよね。

この時期、順調に成長を実感できている方もいれば、なかなか伸び悩んでいらっしゃる方も多いのではないかと思います。

なぜ2次試験はこれほど難しいのか、長年に亘る取組みの中で折に触れて考え続けてきました(そんな時間があったら勉強すれば?というツッコミが毎回聞こえてきそうで、想像だけで耳タコです)。

与件文に、ミステリー小説でよくある巧妙な“叙述トリック“が仕掛けられているから、だから難しいのでは?

今日はそんな妄説について、本ブログを奇貨として検証してみたいと思います。

叙述トリックとは何か?

まず、”叙述トリック”とは何でしょうか。

実用日本語表現辞典によりますと、

主に推理小説などで、先入観などを利用し、読者を誤った解釈に導くことを意味する語。例として、人物の性別や年齢、時系列や場所などに関して、文章中で重要な情報を巧みに隠蔽することにより、読者を欺くことが行われている。

とされています。

定義云々の説明を聞くより、実際の用例を見ていただく方がわかりやすいと思います。

以下は、叙述トリックをわかりやすく説明したツイッター上の作品です。

 

「叙述トリックお嬢様」

「叙述トリック?」
「そう、それですわ!叙述トリック!いったいどういうトリックなのかイマイチわからないんですわ」
「そう言われても、意図的にある情報を伏せることによって読者の思い込みで事実を誤認させる方法だね。としか言いようがないよ。主に推理小説で用いられることが多いね」
「言葉で説明されてもよくわからないんですわ」
「とは言っても、『この作品が叙述トリックを使った作品だ』などと教えたら、それだけでネタバレになってしまうからね。君も推理小説のネタバレは許せないタイプの人間 だろう?」
「あ、あたりまえですわ!」
「そうだね。では実際に『叙述トリック』をこの場で見せてみようか」
「そんなことができるんですか?そら助かりますわ?おおきにな、兄ちゃん!」

いかがでしょうか?

お嬢様と物知りの会話だと思っていたら、最後に聞き手が明確な関西弁に。これまで聞き手が多用した「ですわ」はお嬢様言葉でなかったという、叙述トリックの仕掛けを説明して文章は締めくくられました。それに気付いてから読み返すと、聞き手が関西のおっちゃんかおばちゃんにしか思えなくなるから不思議ですね。

これはまさしく先入観を利用し、読者を誤った解釈に導くことを意図した文章だと思います。

本文中で「聞き手が関西人である」という重要な事実をあえて「言い落としている」ことが最大のポイントになります。

 

叙述トリックの分類

叙述トリックについては推理小説専門家(マニア)の方々が様々な考察を発表しており、トリックの対象による分類だけでも、

・人物に関するトリック(誰が)

・時間に関するトリック(いつ)

・場所、情況に関するトリック(どこで)

・物品に関するトリック(何を)

・行為に関するトリック(どのように)

・動機、心理に関するトリック(なせ)

・その他のトリック

と多岐にわたっています(紙面の関係で具体例は割愛します)。

つまり、5W1Hすべてトリックに使える要素があるということですね。

結論:与件文に叙述トリックはあるのか

では、診断士試験の与件文に叙述トリックはあるのでしょうか?

さすがに診断士試験は国家資格ですので、「第1段落のA社と、第3段落のA社が実は別の会社だった」とか「最終段落に書かれているA社実績が大昔のものだった」とか、「A社の発展が現実ではなかった(夢オチ)」とか、大きく暗黙のルールを逸脱する記述はあり得ない、と言えるでしょう。

むしろ段落分けや接続詞などは至って正確な論理構成がなされており、「わざわざ表現」で解答根拠がしっかり記述されていたりと、推理小説界隈の語彙を使えば「極めてフェア」なつくりといえると思います。

しかし、受験者の80%を不合格にする試験である以上、診断士としての知識や論理的思考力を試すために、正答を導くのための重要な情報を「あえて言い落とし」ていることは当然ながらあり得ます。そのため、社会人として日常的に目に触れる類の新聞記事やレポートなどの著作物では到底考えられない「情報の欠落」があり、だからこの試験は難しいのだと思います。

では、意図的な情報の欠落があるから叙述トリックなのか?というと、私は2次試験は「受験者を誤った解釈に誘導する」意図はないと考えます。単に情報が欠落していたり、構成が複雑で論旨が見えづらかったりするだけで、ミスリードを狙っているものではないと(事例Ⅳの単位の設定は若干の意地の悪さを感じるものの)。

結論、診断士試験の与件文には、「重要な情報の欠落はあるものの、受験者を欺くための叙述トリックはない」といえるでしょう。(この結論、書きながら二転三転しました、、。)

したがって、余計な心配はせず、与件文を信じて読み込むべきだと思います。そして、2次試験特有の暗黙のルールを深く内面化し、1次知識を確実に身につけ、言明されていないけれども蓋然性の高い事実を解答上で表面化させていくことが必要がある、と考えます。

これは、合格後の診断士の実務としても重要な素養と言えるのではないでしょうか。

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